第2381回例会

第2381回例会(2025年10月27日)

「経営する意義」
大阪公立大学 経営学研究院都市経営研究科
准教授 加藤 敬太 様

 今日は、皆さまに「経営学」という学問について、知っていただきたいという気持ちでお話しさせていただきます。経営学という学問は、主に企業経営の分析を行います。「良い経営を実践的に」が経営学の定義です。経営学の別名は、「組織論」と言われることもあり、2人以上の人間が集まった組織であれば、それはどのような組織であっても経営学の分析対象になります。ところが、この学問の分析対象の多くは企業経営であります。私は、その理由が2つあると考えています。
 1つ目は、世の中は、企業経営を中心に動いているという実態があるからです。皆さまの身の回りの物々を見渡してください。大半、民間企業が作り出した物しかないはずです。行政や政治が物々を生産しているのではありません。それらのセクターはあくまでも世の中のサポーターの役割を担っているに過ぎません。あくまでも主役は企業の経営活動です。民の力が世の中を創るのです。ゆえに、経営学は、世の中をけん引する主役たる民間企業を分析することに注力する義務を負っているのです。
 もう1つの理由は、経営学者のパーソナルパワーの問題です。意外に思われるかもしれませんが、全国各地の大学に経営学部や商学部、経済学部があり経営学者の人数もそれなりに多いのではという印象も持たれがちです。しかし、実態は全く違います。経営学の最大の学会でも学会員数が2000名程度。その中には、ビジネスパーソンや大学院生も含まれており、現役の経営学者の実数は、もっと少なくなります。この人数は、日本の企業数が400万社ともいわれている中、あまりにも少ないのです。よって、多様な組織の分析に注力できないという現実があります。我われ経営学者は、企業経営と向き合うしかないのです。
 このことは、今日お集りの経営者の皆さまにとって、経営学者と接する機会が稀であること、むしろ、今日のような機会は偶然、いや奇跡的な機会であることといえます。ぜひ、皆さまには、「経営学」という学問があることを知っていただきたいなと願っております。
 前置きが長くなりましたが、「経営する意義」とは何でしょうか。それは、企業の経営活動の結果、社会のお役に立てることに尽きます。間違えてはいけないのは、経営活動の目的が利益を出すことではないということです。あくまでも利益が出ることは経営活動の結果であって、経営の目的、本質、意義は、価値創造にあります。
 もう一度、皆さまの身の回りを見渡してください。目の前のペットボトルのお茶やお水を見てください。おいしく安全安心な飲料が提供されるのは飲料メーカーという企業の力です。大げさな言い方かもしれませんが、おいしい飲み物を社会に届ける、それは世の中に役立つための価値創造なのです。生産活動の実態は、業種を問わず新しい価値を生み続けることに尽きるのです。
 経営者の皆さまには、価値創造を行ううえで、軸を持つことを再認識してほしいと願います。人間、誰しも他人のお役に立ちたい、そして粋に感じることがあると思います。利他の精神です。社会のお役に立てる経営活動を全うすることは、その経営を担う企業組織の本質です。そのことを、ビジョンとして言葉にしてください。経営者の役割は、自信を持って社会に向けて発信する具体的なビジョンを掲げることに大きな比重を持たせなければなりません。明確なビジョンがあるからこそ、従業員、ステークホルダーがまとまり組織が活気づくのです。決して、打算で行動しないことが何より肝心です。
 繰り返しになりますが、経営者の皆さまが担う経営活動が社会を支えています。ぜひ、皆さまには「経営学」という学問を知っていただき、この学問を活用しながら楽しく意義のある経営を実践し続けてください。本日は、ありがとうございました。