第2317回例会

第2317回例会(2024年1月22日)

ワイナリー ドメーヌ結
杉山 彩 様

私は元々北海道の人間ではなく実家は栃木県宇都宮市で、大学進学で初めて北海道を訪れました。同じ大学で知り合った夫と結婚し東京で中学校の教員を10年間しておりました。一念発起して家族で余市に移住し今年で7年目となります。東京で勤めていた私たちが余市でワインを作りたいと思うようになったきっかけは3つあります。
まず1つ目は長女の出産です。長女は知的障害を持って生まれてきました。当時23歳だった私は特別支援学級の教員をしており、障害のある人たちは職場で接する身近な存在でしたが、長女が生まれてきたことによって人生を考える大きなきっかけになりました。
2つ目は私の出身・栃木県にあるココファームワイナリーとの出会いです。長女のこれからについて悩んでいた頃、自分の実家の近くで障害者の人たちもワイン造りをしている場所があると知ってとても驚きました。自分たちもいつかこんなことができるのではないかと考えるようになり、お金を貯めたり少しずつ準備を始めました。
最後のきっかけはアジアへのバックパッカー旅行をしたことです。タイと香港へ小学2年生の長女と4歳の次女を連れて2000円位の宿に泊まりながら2週間ずつ滞在しました。この旅で未知の場所でもなんとかやっていけるのではないかという自信がつきました。
余市へ移住してみたら予想以上に大変なことがたくさんありました。まず都市部とは違い、子育てについての公的・私的サポートが極端に少ないこと。余市に引っ越して1年目に3女を産むことになりましたが、町内に産婦人科がなく、隣町の小樽まで行かなければならないことに驚きました。そして町内に一軒あった小児科も途中でなくなり、現在も医療面での選択肢がとても少ない状況です。
また月齢の小さな子供が入れる保育園などの施設がなく、当初は自分で面倒を見て1歳になる前から小樽市の保育園へ預けることになりました。ベビーシッターなどのサービスがないのと親戚や身寄りがないためとても苦労しました。
また農村での独特の価値観にも最初戸惑いました。余市の農村部ではまだ男尊女卑が強く残っており「家のことは女性が。外のことは男性が」と線引きされているように思います。引っ越し当初、近所の方に仕事のことでご挨拶に伺った時に「次はご主人がきてください」と言われたことが何度もありショックを受けました。お酒の席でも男性の席と女性の席を分け、女の話は聞かないという雰囲気がありとてもやりにくかったです。
移住当初の7年前、余市町はワイン産地としてはそこまで知られていませんでした。
途中で町長が変わり、町の政策の中心にワインが据えられ、私たちも雑誌やテレビで取り上げていただき初期からチャンスを沢山もらうことができました。
私たちのワイナリードメーヌユイは元々リンゴと洋梨の畑だった場所をチェンソーを使って開墾するところから始めました。ブドウの苗を植え2020年に免許を取得し自社醸造をスタートしました。販売後すぐにワインがなくなる状況が続いておりとてもありがたいです。醸造所は築50年の農機具用倉庫をリノベーションしたもので、札幌の女性建築家にお願いしグッドデザイン賞をいただきました。
ドメーヌユイのワインは香りが華やかで、アルコール度数が低め、繊細な味わいのものが多く、他のワイナリーのワインとは少し個性が異なっています。醸造は夫と一緒に行っていますが、リリース前のブレンドや味や香りについての最終決定は私が行っています。一般的に女性の方が香りや味についてのセンサーが鋭いと言われていることもあり、ここは女性としての強みが生きているかもしれません。
畑の地図がそのままワインのラベルになっており、取れた畑の場所がくり抜かれているデザインとなっています。1番、2番、4番というのは畑の区画の番号で、伝統的なワインラベルのデザインとは異なり視覚的にもわかりやすいと好評を得ています。農薬は極力使わずに栽培を行っています。
ラベルのデザイン面や女性が運営しているワイナリーということで、女性の方に興味を持っていただく機会や連絡しやすい雰囲気があるのか、お客様やボランティアの方々の女性比率がとても高いです。
毎年9月に行われる余市のワインイベント「ラフェト」はドメーヌユイの中に5つのワイナリーが集まる形でブースを作りました。窓口になっていただいたのはそれぞれのワイナリーの奥様方で、イベント運営を女性が中心になって行い大成功を収めました。女性同士フラットな関係性でのイベントになったと思います。私が表に出ることによって、少しずつ他のワイナリーの女性も表舞台に出てきてくださることが増えてとてもうれしく思っています。
今後の目標は世界に向けて販売をしていくことです。ここ1年位でインバウンドの方がワイナリーを訪ねてくることが増えました。昨年の醸造期に香港から来た若者がボランティアで3週間滞在してくれたりと、急激な変化を感じています。前回のリリースから香港への輸出が決まり、300本強と少量ではありますが世界に向けての販売が始まりました。当然ビジネスも英語で行わなくてはいけないため英語の勉強もしています。
これまでは食用ブドウの2000円台のスパークリングワインが主力でしたが、来年からはワイン専用種のピノノワール・シャルドネなどのリリースも本格的に始まる予定で世界に挑戦して行けたらと考えています。
また地域の福祉作業所と連携して今は主に出荷の際の段ボール作りの作業をお願いしています。来年は収穫などもお願いしていく予定です。小さなところからではありますが、今後多岐にわたって連携をしていけたらと考えています。
女性でワイン造りに興味を持つ方が増えたり、余暇を楽しんだり、また地域の女性が発信できる場面が多くなると良いと思う。更に女性の集まるワイナリーにしていきたいです。