第2172回例会

第2172回例会(2019年5月13日)

『児童養護施設について』
児童養護施設 興正学園 副施設長
鏑木康夫氏
5月13日に札幌北ロータリークラブ様の例会において児童養護施設についてお話をさせていただきました。
札幌北ロータリークラブ様からは、毎年子どもたちに様々な経験の機会を与えていただいておりますが、その中で支援している児童養護施設のことをもっと知りたいと言う要望があったと聞き、このような機会をいただきました。
児童養護施設の近代は、明治時代にさかのぼり、岡山孤児院、石井十次さんの先駆的な取り組みにあったと言われています。
その精神が今の児童養護施設に脈々と流れておりますが、戦後、日本は戦争により多くの戦災孤児がうまれてしまいました。
それを見た、情熱を持った方々が、子どもたちを自宅に受け入れ、生活をさせたことが現在の児童養護施設の始まりです。
そして、その時代、日本も子どもたちのことを一番に考えようと、世界に先駆けた法律を作りました。
「児童福祉法」と「児童憲章」です。これは世界からも大変な注目を浴びました。
しかし、その後、日本は経済発展に重きを置き、子どものことは置き去りにされた感じになりました。1989(平成元)年11月20日に採択された「子どもの権利に関する条約」は、世界レベルの条約ですが、我が国は,1994(平成6)年4月22日に批准を行いました。日本の批准は、アジアでもっとも遅い方でした。
そのようなことを考えても、今の日本は必ずしも子どもたちにとって素晴らしい環境であるとは言えないところが多く見受けられます。
虐待の問題、貧困の問題、子育ての問題などまだまだ考えていかなくてはならない課題が山積みです。世界的に見ても日本の貧困問題、虐待問題が指摘されています。私達は再び、真剣に子どもたちのことを考えていかなくてはならない時代に突入したと思っています。
また、生活環境をより家庭的な方向へと日本は方針を出しましたが、それに対しての人材の確保、財政の確保などハードな部分での立ち遅れも出ています。日本が掲げている方向性と、それを実現するための中身が伴わない現実は、子どもたちにとって良い環境となりえていない実感があります。
様々な要因があり、児童養護施設に入ってくる子どもたちが増えております。その子どもたちは、今まで生きてきた中で、安心安全の生活を送れなかったり、十分な愛情をかけてもらえなかったり、自尊心が低かったり、自分に対して否定的な感情を持っていたり、といった子どもたちが多くなっています。自分は愛されていない、自分の存在意義がわからない、そう思っている子どもたちです。
ですから私達職員は、子どもたちによりよい生活を体験させ、そこで人を信頼できるような関係性を作り、その中で認められ、愛されていると実感できるようなメッセージを伝えていきたいと考えています。そうして子どもたちが一つ一つおとなになっていくことを見守るのが私達の社会的な責務だと思っています。
以上のことを申し上げましたが、このような施設の子どもたちへの支援については、近年支援してくださる方が増えてきていることも現実的にあります。子どもたちとの交流事業や奨学金制度の充実、生活に必要な日用品の寄贈など、温まるご支援もたくさん頂いております。私達職員だけではどうにもならないことが、地域の皆さまの力をお借りしたり、心ある各団体様のおかげで、温かい支援が充実され、子どもたちに行き渡るようになってきています。
札幌北ロータリークラブの皆様が、毎年子どもたちに会ってくださり、温かいお声をかけていただけることが子どもたちの成長の糧になっております。
どうぞ今後も子どもたちに温かい眼差しを向けてあげていただきたくお願い申し上げます。

委員長
瀧澤 隆之介

本年度、青少年奉仕委員会では、「青少年の経験の格差是正」をテーマに、児童養護施設興正学園様と連携し、円山登山~円山動物園遠足を企画し、事業を行いました。
興正学園様とは本年度以前にも、社会奉仕委員会の活動などで連携をさせていただいており、今後も連携を行うことが考えられるところです。
そこで、今回のフォーラムでは、副施設長の鏑木康夫様をお招きし、学園の成り立ち、社会的位置づけ、活動内容及び児童養護施設の援助を必要とする子どもの実態、などをご講演いただき、学びました。
鏑木様のお話を聞き、日本が戦後、子どもよりも経済を優先した面があったことについて、身につまされ考えさせられました。また、昨今問題がみえてきた児童虐待について、虐待をしてしまう親も過去虐待を受けていたことがあるなどの「虐待の連鎖」といった問題があり、こうした「虐待の連鎖」を食い止めるためには、児童養護施設という存在が必要であることがよくわかりました。
講演後の質疑応答では、会員の皆様から多数の質問をいただき、非常に闊達な議論が展開されました。会員からは、1児童養護施設から家庭へ帰る子どもの数やその
基準などの実態、2しつけが虐待へと変異してしまうことがあるのではないかという問題意識、3日本の教育が必ずしも個性を重視するのではなく一定の型へと当てはめる方向にあるのではないかという問題意識、4児童養護施設における子どもの自己肯定感の醸成の重要性などについて、意見が表明されました。
今回のフォーラムにより、児童養護施設について、会員間でより深い知識を共有できました。
これにより、今後の青少年奉仕活動に活かすことのできる素地となったと思います。
ご講演をいただいた鏑木康夫様、ありがとうございました。また、ご参加頂いた会員の皆様にも感謝いたします。