第2138回例会

第2138回例会 (2018年6月11日)


日本銀行札幌支店 支店長 小高 咲 氏(札幌RC)
「本日は日本銀行についてご紹介」

 日本銀行といえば、金融政策。新聞やニュースで取り上げられるのも金融政策運営が中心です。が、実は日本銀行は、「銀行」と名の付くとおり、預金・為替業務や貸出業務といったいわゆる「銀行業」を行っており、全国の本支店の非常に多くの職員がそうした仕事に従事しています。私自身も、日本銀行に勤めて30年を超えますが、こうした「銀行業」に関わる仕事に一番長く携わってきました。日銀の取引先は個人や一般法人ではなく、金融機関や国であるという点で民間金融機関と異なるものの、「銀行業」を行っているという点では変わりはありません。 
 そうであるにもかかわらず、日本銀行は日本で「唯一の」中央銀行であり、その目的は、日本銀行法に定められています。すなわち、まず第一に、「我が国の中央銀行として、銀行券を発行するとともに、通貨及び金融の調節を行うこと」、第二に、「銀行その他の金融機関の間で行われる資金決済の円滑の確保を図り、もって信用秩序の維持に資すること」です。そして、日本銀行は、「通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする。」とも定められています。 
 このように、日本銀行の目的や理念は民間金融機関とは異なりますが、その特殊性はどこから来ているかというと、銀行券や中央銀行当座預金という「通貨」を発行しているというところです。中央銀行の、従って日本銀行の本源的な目的は、「銀行券や中央銀行当座預金という通貨を発行し、人々が通貨を安心して使えるようにすることを通じて、経済の発展に貢献すること」なのです。 
 例えばお札(銀行券)は、素材としての価値はわずかなものです。にもかかわらず、額面通りの価値を持つものとして人々から使われているのは、銀行券に対する信認があるからです。金融市場では毎日膨大な取引が行われており、その決済には中央銀行の当座預金が使われていますが、これも中央銀行の当座預金への信認があるからこそ可能になっているものです。 
 通貨が信認を維持するためには、物価が安定していること、金融システムが安定していることが重要な前提条件となります。この前提条件の1つである「物価が安定していること」を実現するために、金融政策を運営している、ということになります。 
 他方で、現金通貨、すなわち銀行券がきれいで偽造され難いものであることも、通貨に対する信認を維持するためのより直接的な目に見える前提条件と言えます。銀行券に施された様々な偽造防止技術と金融政策運営は、一見あまり関係がないように見えますが、いずれも、前述の日本銀行の本源的な目的に沿ったものであるということになります。 
 銀行券については、日銀法に、「法貨として無制限に通用する」と定められています。貨幣(コイン)が額面の20倍までしか通用しないのとは対照的です。日本銀行は、全国の本支店において、銀行券に関係する仕事として、①銀行券や貨幣の保管・出納、②銀行券の鑑査(真偽鑑定、枚数計査、正損選別)を行っています。古くなった銀行券は細かく裁断して焼却(約半分は、建材や燃料としてリサイクル)しています。 
 上記のとおり、「銀行券がきれいで偽造され難いものであること」は通貨に対する信認を維持するための重要な要素であり、銀行券には高度な技術を用いた様々な偽造防止技術が施されています。ご関心のある方は、日本銀行のホームページをご覧下さい。銀行券の券種別に、具体的な偽造防止技術の説明があります。たまには拡大鏡を片手に、お札を観察してみるのも楽しいのではないでしょうか。