第2137回例会

第2137回例会 (2018年6月4日)


北海道医療大学 学長 浅香 正博 氏
北海道医療大学の卒業生から肺がんと胃がんで亡くなる人をなくすために

わが国における死亡原因を見ると、脳血管疾患や心疾患などのメタボリック症候群由来の死因は近年頭打ちになってきている傾向を示していますが、悪性新生物すなわちがんの死亡率は年々上昇しており、下降傾向を示しておりません。喫煙は中でもとびきり大きながんの原因になっていますが、なかなか喫煙者の数は減ってきません。しかし喫煙者が減少すると肺がんの発生も間違いなく減少するはずです。また、感染症由来のがんは感染源をなくしてしまえばがんの予防は可能になります。わが国は感染症由来のがんの多い地域であり、全体の25%を占めています。
がんが加齢に基づく現象のみであるならば予防は困難と思われますが、それ以外にも原因はいくつも存在します。がんの原因が明らかになれば、その原因をなくすことががんの予防につながるのです。これががんの一次予防です。禁煙や食生活の改善などがこれに相当します。しかし、これまでのわが国のがんの一次予防に対する取り組みはかけ声倒れに終わっており、早期発見、早期治療をめざす二次予防の検診のみが奨励されています。
北海道医療大学は歯学部、薬学部、看護福祉学部、心理科学部、リハビリテーション科学部の5学部、8学科から成る医療系の総合大学です。学生総数は約3,500名であり、がんの一次予防を実践するのに適していると考えました。まずは禁煙の重要性を講義や掲示により学生に徹底させるようにしました。これだけでは不十分なので、“北海道医療大学の学生諸君、すぐに喫煙をやめよう”という小冊子を作成、全学生のみならず教職員にも配付して大学を挙げての禁煙プロジェクトを立ち上げました。
40年以上にわたってわが国の胃がん死亡者数は5万人前後で推移してきました。ところが2013年にピロリ菌除菌が慢性胃炎に適用拡大がなされてから、明らかに死亡者数が減少し始めました。保険適用後4年間で約600万件の除菌が行われ、同じ数の胃内視鏡検査も同時に行われたことで、胃がんの早期発見の数が相当数増えたと考えられます。このことにより胃がんで亡くなる人の数が減少を始めたのです。実際、2015年には46,659人と7%も減少しています。まもなく除菌効果による胃がん発生数の減少も加わりますので、さらに胃がんで亡くなる人の数は減少すると思われます。まさしくがんの一次予防の重要性が再認識されたできごとと考えられます。そのため、ピロリ菌の除菌も北海道医療大学のがん予防プロジェクトに組み入れることを決定し、“胃がんでいのちを落とさないために”という小冊子を作成し、全学生、教職員に配付しました。大学生のピロリ菌陽性率は10%以内と推定できますが、これを全て除菌することで将来胃がんになる危険性を限りなくゼロに近づけることが可能と考えられます。
このように北海道医療大学は大学を挙げて卒業生から肺がん並びに胃がんで亡くなる人をなくそうという試みを開始しました。これはわが国では初めての試みであり。他大学やマスコミからも注目されています。

<< 一問一答 >>
Q:普通のタバコと電子タバコでは、発ガン率はどれくらい違いますか?
A:まったく変わりません。紙巻き、葉巻き、電子タバコ、どれも同じです。