第2130回例会

第2130回例会 (2018年4月9日)

北海道大学大学院医学研究院 脳神経外科学 中山 若樹 先生
『くも膜下出血にならないために!』

 様々な突然かかる脳の血管の病気、脳卒中の中で、くも膜下出血は、直接生命を奪うことの多い大変恐ろしい疾患です。くも膜下出血のほとんどは、脳動脈瘤が破裂することによって引き起こされます。脳動脈瘤は通常、血管の枝分かれの又の部分が風船のように膨らんで作られます。この中も常に血流が駆け巡っているわけですが、動脈瘤になった血管の壁は脆いため、ある時突然壁に穴が空いて出血します。脳や脳の皺は、くも膜という透明な薄い膜で覆われていて、くも膜と脳の隙間は髄液で満たされており、この隙間をくも膜下腔と呼びます。動脈瘤は、くも膜下腔に存在しているので、ここで出血を起こすと、その出血は脳全体のくも膜下腔に一気に広がって脳にダメージを起こすのです。
 
 

 
 
 くも膜下出血が起きるとその瞬間、まるで鉄のハンマーで後ろから殴られたような激烈な頭痛が発生します。しかしそれも意識があるような軽いくも膜下出血の場合のこと。重症の場合は、すぐさま意識不明になったり、場合によっては体の反応で不整脈や心不全を起こして心停止に至ることもあります。このくも膜下出血の重症度は、動脈瘤の場所や大きさではなく、出血の量によって左右されます。動脈瘤が破裂したあと、比較的短時間で頭蓋骨の中の圧力が高まることで一旦、出血は仮に停止します。動脈瘤に穴が空いた部分に、かさぶたのようなものが付いて止まるのです。それまでの間に、どれだけの量の出血があったかによって、軽症だったり重症だったりするわけです。一度破裂した動脈瘤は数時間ないしは24時間の間に高率に2度目の再破裂を起こすので、緊急で手術をしますが、最終的にどうなるかは、どんなに治療を急いでも、最初の出血のダメージでほぼ規定されてしまいます。
 くも膜下出血を起こした患者さんのうち、約半数は、病院に辿り着く前に死亡するか、病院に運ばれてどんなに急いで治療しても結局死亡に至ってしまいます。一方、最初のダメージが軽くてその後の治療も順調であれば、全く元通りに回復できる場合もあり、それが30%ほどです。残りの20%は、救命はできても、何らかの後遺症になったり寝たきりになってしまいます。
 厄介なのは、動脈瘤が存在しているだけでは通常は全く症状は無いので、動脈瘤を持っていても気づかないことです。さらに、動脈瘤が破裂を起こす前に何らかの前触れの症状があればよいのですが、そういう前兆は一切なく、突然破裂を起こしますので、全く予見できないのも困る点です。
 今のところ、動脈瘤ができる原因は分かっていません。血管の年齢による変化や動脈硬化、血流によって血管の壁にかかる物理的な負荷などが関係していると考えられていますし、高血圧も関係していると言われていますが、まだ解明されておらず、したがって動脈瘤が出来ないようにする方法は、現時点では存在しません。そして動脈瘤を持っている場合、それが破裂しないようにする治療薬や対策法も無いのです。ですから、動脈瘤を持っていることが分かった場合は、破裂を起こす前にあらかじめ動脈瘤を処置して無くしておくことが、唯一のくも膜下出血を防止する方法ということになります。
 動脈瘤を処置する基本的な方法としては、開頭手術で動脈瘤の入り口をクリップで閉じるクリッピング術(図1)という方法と、カテーテルを血管の中に通してコイルで動脈瘤の中を詰める血管内治療(図2)とがあります。それぞれの治療には長所と短所があって、動脈瘤の部位や形状など様々な条件を総合的に判断して選択していきますが、どちらの治療法も現代ではかなり進歩しており、未破裂の状態で予防的に治療する場合は、通常の動脈瘤であれば合併症リスクは数パーセント以内に低減されています。動脈瘤があっても必ずしもすべてが破裂するわけではありませんので、とくに小さいものの場合は経過観察することも多いです。実際には、動脈瘤の諸条件を鑑みて、主治医と患者さんとでじっくりと話し合い、治療するかどうか、治療するとしたらどの方法をとるかを決めていきます。
 
 

 
 
 大事なことは、動脈瘤を持っているかどうかを知ることにあります。知らなければ次の道は開けません。動脈瘤は、たとえば日常的な頭痛や眩暈などで病院を受診して画像検査をすることで発見されたり、頭部外傷や別の脳の病気を疑って検査を受けて発見されることもありますが、脳ドックを能動的に受けて調べることもできます。脳ドックはMRの機械で、MRIという脳の断層写真と、MRAという脳の血管とを写し出して行われますが、造影剤なども使わず外来診療で15分ほどの撮像で簡便にできます。動脈瘤の有無を調べるだけでなく、動脈硬化の程度や血管の狭窄/閉塞の有無を確認したり、隠れ脳梗塞の多寡を評価することもできますから、こうした検査を受ける意義は非常に高いと思います。これからの明るい人生を守るためにも、ぜひ積極的に脳ドックを受けられることをお勧めします。